M&A価格決定の構造と実務的な考え方
M&Aにおいて「いくらで売れるのか」「適正価格はいくらか」という問いは、売り手・買い手双方にとって最も重要かつ関心の高いポイントです。価格は単に“相場”で決まるのではなく、複数の視点や手法、交渉によって導かれるものです。
本記事では、M&Aの価格決定プロセスについて、経営者が理解しておくべき基本的な考え方と実務の流れを解説します。
M&A価格=企業価値+交渉要素
M&Aの価格は大きく分けて2つの構成要素から成り立ちます。
1. 企業価値(バリュエーション)
DCF法、類似会社比較法、類似取引比較法などを用いて“理論上の価値”を算出
2. 交渉要素(取引条件・戦略・タイミング)
売り手・買い手の立場、競合の有無、買収後のシナジー、緊急性などによって変動
主な価格算定手法
- DCF法: 将来のキャッシュフローを現在価値に割り引く。理論重視の手法
- 類似会社比較法: 同業上場企業のマルチプル(EV/EBITDAなど)から算出
- 類似取引比較法: 過去の同様なM&A取引価格をベースに導出
買い手・売り手の視点の違い
● 買い手の視点
- 将来得られるキャッシュフローやシナジーを基に“投資価値”を評価
- リスク(簿外債務、依存顧客など)をディスカウント要因として価格に反映
● 売り手の視点
- 過去の業績やブランド、人的資産などから“希望価格”を提示
- 退職金や税金などの手取り額にも注目
→ このギャップを埋めるために、交渉・条件調整が行われる
価格調整の例
- ネットデット調整: 譲渡時点の現預金と有利子負債の差額を調整
- 運転資本調整: 譲渡後の資金ショートを防ぐため、一定水準を基準に調整
- アーンアウト: 業績達成に応じて追加支払を行う条項(売り手の価格希望に配慮)
実務でよくあるギャップと対応
- 売り手:相場より高く売りたい → 「感情的価値」を含む
- 買い手:リスクを懸念して価格を抑えたい → 「将来の不確実性」を重視
→ 解決策:第三者評価(FA・会計士)を導入/段階的支払スキームを採用
ロタンダコンサルティングの支援
当社では、売却希望企業のバリュエーションと市場評価の整理から、買い手との価格交渉、調整条件の設計までを一貫支援。感情と理論のバランスを重視した“価格戦略”を提供します。
まとめ
M&Aの価格は「理論値×戦略×タイミング」で決まります。数字だけでなく、売り手・買い手それぞれの立場や意図、交渉スキルも大きく影響します。
納得感のある価格形成のためには、準備・説明・交渉の3段階を丁寧に進めていくことが成功への近道です。